sp
その150(りらく2023年9月号)

 梅雨が明けた7月の下旬、瀬戸内海の明石(ルビ=あかし)でタコ釣りをすべく、仙台空港から神戸に向かいました。目的地の明石は神戸のすぐ隣にあり、前泊して翌日の早朝、釣り仲間と仕立てたタコ釣り船で漁場(ルビ=りょうば)を目指しました。漁場からは本州と四国を結ぶ明石海峡大橋や対岸の淡路島が見え、瀬戸内海ならではの風景が広がっています。
タコ釣りは、エギという小魚に似せた擬餌針に重りを付けて海底に降ろし、着底したら小刻みにしゃくりながら誘いをかけます。深さは20メートルほどでしょうか。海底に潜んでいるタコに対して、いかにして着底したエギを本物の小魚やエビのようにアピールするかが腕の見せ所です。当然、海面からはエギの様子は見えませんので、エギの動きを想像しながら竿を操作して獲物が掛かるのを待ちます。

 周りの釣り人に次々とタコが掛かり始めました。少し焦りながら私も竿をしゃくっていると、ようやく「ズン」という重みが手に伝わってきました。ヒラメやタイなどの大型の魚のような強い引きはないのですが、タコがエギを抱いた瞬間、竿を通してこの「ズン!」という重さが手に伝わってくる感触が魅力です。タコが掛かったら手を緩めずしっかりとリールを巻き上げます。慎重に巻き上げて、やっと1匹目を釣り揚げることができました。その後も何匹か揚げることができ、わざわざ仙台から来た甲斐があったというものです。お天気にも恵まれて楽しい釣行となりました。


 さて、前回から生前贈与に関するお話をしていますが、前号では、贈与契約は「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。(平成29年改正後の民法第549条)」という民法の規定をご紹介しました。そして、贈与契約は、口頭でも法的に成立するとお話ししたのですが、口頭での贈与契約は、その事実関係をめぐって後々問題となることがありますので注意が必要です。
例えば、生前贈与の問題が顕在化するのは、贈与をした後、その贈与者が死亡し相続が発生した時です。遺言書があれば、遺言書通りに遺産は分割されることになりますが、遺言書が無い場合は、民法で規定する法定相続分を基に、相続人間の話し合い(これを「遺産分割協議」と言います)で誰がどの遺産をどれだけ相続するか決めることになります。この場合、被相続人が生前に相続人に贈与した財産(これを「特別受益」と言います)がある場合は、これを考慮して、各相続人の取り分を決めることになります。例えば、相続人が配偶者と子ども2人の場合の法定相続分は、配偶者1/2、子ども一人につき1/4ですが、各相続人の具体的な遺産の取り分を計算する場合は、遺産の額にこの特別受益額を加算して、各相続人の法定相続分を乗じ、特別受益のある方は、その法定相続分を乗じて算出された金額から特別受益額を控除した金額が、その相続人が相続することができる金額(これを「具体的相続分」と言います)となります。
したがって、遺産分割協議により遺産を分ける場合は、被相続人が生前に相続人に贈与した財産(特別受益)がわからないと公平な遺産分割ができないことになるわけです。口頭による贈与があったにもかかわらず、その贈与を受けた相続人が他の相続人に被相続人から受けた贈与の有無及びその財産の内容を言わないまま、遺産分割協議が行われてしまいますと、どういう問題が起きるのか、次回で詳しくお話ししたいと思います。

sp