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その57(りらく2015年11月号)

 9月の半ば、今年で3回目となる「ツール・ド・東北」に参加してきました。東日本大震災の翌年の9月にはじまったサイクリスト(自転車乗り)のイベントで、レースではなく、石巻専修大学をスタート地点として、女川、南三陸町、気仙沼等、三陸沿岸を自転車で巡ります。第1回の参加者は、千3百人余でしたが、その後参加者が増え続け、今回は3千5百余名と倍以上になりました。今年も地元の方だけでなく、遠く関西や東京方面等、全国各地からたくさんのサイクリスト達が集まりました。顔ぶれも多彩で著名人の参加も多く、米国駐日大使のケネディさんも昨年に引き続きの参加です。
 この「ツール・ド・東北」の特徴は、単なるサイクルイベントではなく、東日本大震災で大きな被害を受けた三陸沿岸の町や集落を自転車で巡るという点です。着目すべきは、コースとなっている女川をはじめ、ほとんど全ての町や集落は大津波で壊滅的な打撃を受け、大震災から4年以上も経った現在でさえ、その爪痕が大きく残っているということです。コース沿いには、仮設住宅が点在し、今でも多くの被災者が暮らしていらっしゃいます。その被災者の方々が沿道に出てきて我々参加者が通るたびに旗や手を振って応援してくださるのです。被災者応援のために走っている我々が応援されると、何故かこみ上げてくるものがあって逆に励まされます。まだまだ時間はかかるでしょうが、以前のような町並みが戻るまで、このイベントが続いていって欲しいと思った次第です。

リンドウの花 月山と牛首、柴灯森を望む 斜面を慎重に滑る


 今回も引き続き「信託」についてお話ししたいと思います。今回のテーマである家族信託は、民事信託の一つですが、財産の管理・運用を託する人(委託者)、これらを託される人(受託者)、その財産から生じる利益を受ける人(受益者)が皆家族で構成されるというものです。例えば、年間100万円の家賃収入があるアパートをご自分が所有しているとします。このアパートを信託財産として息子を受託者、自分自身を受益者とする家族信託契約を締結すると、従来どおりアパートの家賃収入はご自分が受け取ることができます。一見これでは何も以前と変わらないように見えますが、例えば将来自分が認知症にかかってしまい、自分では直接そのアパートの管理・運用ができなくなっても、受託者である息子が引き続き入居者との賃貸借契約の締結、建物の修繕等を当事者となって行うことができますし、その家族信託契約においてアパートの処分(売却や建替え等)も信託の目的に入れておけば、これらの行為についても受託者である息子の判断で行うことができるようになります。
また、家族信託契約において当初の受益者である自分が亡くなった後は、妻や子ども達を受益者として予め指定しておけば、遺言書を作成しなくとも、そのアパートから得られる家賃収入を受益者として指定された遺族が引き続き受け取ることができるようになります。

この場合、この信託財産であるアパート自体の相続の問題はどうなるのでしょうか? 信託財産は、その信託契約が成立した時点で受託者である息子の名義に書き換えられます。したがって委託者であるご自分が亡くなっても、信託財産であるアパートそのものの相続の問題は生じないのです。自分の死後も引き続き受託者である息子の名義のままとなり、アパート自体の相続の手続きは不要となります。そして、新たに受益者となったご自分の家族の方々が「信託受益権」という権利として相続することになるのです。当初の家族信託締結の段階でこの信託財産であるアパートの相続の問題も予め決めておける点が家族信託の特徴であり優れている点です。
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