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その56(りらく2015年10月号)

 今回は少々季節が後戻りしますが8月に行った、月山での夏スキーのお話です。お盆に入る少し前、暦の上では立秋を過ぎた土曜日、多くの登山者に混じり木道を登っていくと、もう足元には秋の花リンドウが咲いています。頂上手前の牛首下に到着すると、例年よりも雪が少なかったといわれた今年でも期待通り少しだけ残っていました。もっとも、幅50~60メートル、長さ100メートルを少し超える位の小さな雪渓です。せいぜい5~6ターンほどで下に着いてしまう位の距離しかありません。おまけに雪面はスプーンで削いだように硬く波打っており、整備されたスキー場のように平らで快適な状態ではありません。
 そんな訳でよほどの物好きでもなければ、このようなところでスキーをする人はあまりいないのですが、逆にこういう難しい斜面を滑るのも面白いものです。厳しい斜面の上で板をしっかりとコントロールして、きれいなターンを描ければ、何ものにも変えがたい充実感を味わうことができます。そして何本か登り返しては滑りを楽しんだ後、周りを見渡せば濃い緑に覆われた月山、姥ヶ岳の峰々が優しく微笑んでいるかのように見えてくるから不思議です。

リンドウの花 月山と牛首、柴灯森を望む 斜面を慎重に滑る


 前回に引き続き民事信託について少し詳しくお話してみたいと思います。信託というと信託銀行や専門の信託会社が受託者となって行う投資信託や不動産信託などが知られていますが、それとは異なり、民事信託は所有する財産の管理や運用を家族や友人等、自分が信頼する身近な方に託し、その財産の運用・管理・処分までを一括して任せる法的な枠組みです。投資信託や不動産信託は専門の業者が営業として行うもので、商事信託といわれています。これは金融庁の許可が必要すが、民事信託には許可要件が無く、誰でも引き受けることができます。家族や友人が受託者となる場合が多いですが、弁護士や司法書士などの専門家に託すことは信託業法上、できないことになっています。民事信託の中でも、家族に託す場合は家族信託と一般には分類されます。
 そもそも信託の起源は、その昔、何年もの長期間にわたり十字軍の遠征に向かわなければならない兵士が、残された妻と子どもの生活を守るために、自分の土地や財産を信頼できる友人に託し、そこから生じる収益でもって妻と子どもの世話をみてほしいと、友人に頼んで戦場に向かったのが始まりとされていますが、これはまさに民事信託そのものです。
 前回の例では、夫(委託者)が所有している不動産や上場株式、それに現金預金の管理・運用までも受託者である妻に信託するという契約内容でした。これは、委託者である夫が重い病気を患って将来的にも回復の見込みが少なく、これらの財産を自分の判断で安全確実に管理・運用することが難しくなった為、信頼できる妻にその管理・運用を任せるという内容となっています。現時点では夫に判断能力があるものの、体力的な問題や健康上の理由で妻にその財産の管理・運用を任せることにしたものです。この場合、将来的に夫が認知症を患ったりこん睡状態に陥ったりしても、妻の判断で財産の管理・運用そしてその処分までも行うことができるようになります。夫に成年後見人を付けるという方法も考えられますが、その場合、夫の財産を管理・運用するためには、原則として家庭裁判所の許可が必要となり、妻をはじめ身内の人間が関与することはできなくなります。これに対し、家族信託ではそれが可能となります。
 お元気なうちに、ご自分の財産を信頼できる家族に信託し、万が一認知症にかかって正常な判断ができなくなった場合でも、ご自分の生活と家族の生活も併せて守ることかできるのが家族信託なのです。次回も、家族信託について更に詳しくお話してみたいと思います。

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